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@世界地図                                                    2002年11月24日

 

次の旅行の目的地を主人と話していたとき、居間の本棚にある分厚い世界地図の本を開けた。わたしはモンゴルを旅することが夢だ。乾燥した気候や道のり、現地での不便さを考慮すると、やや躊躇することも事実だが、夢は夢でいつか実現したいと考えている。モンゴルへの強い憧憬。それはわたしの中に流れる蒙古の血に由来する。(・・と信じている。)さらに小学生のときに読んだ「スーホの白い馬」や最近読んだ井上靖の「敦煌」、そしておそらく以前テレビで見ていたNHKのシルクロードなどがわたしの中で入り混じって、この聖地を築き上ている。

モンゴロイドではない主人はそんな浪漫など解すはずもなく、わたしがモンゴル旅行を提案する度に却下される。しかし、彼の同僚が中央アジアのキリギスタンへ旅したそうで、もし行くのであれば、そちらの方が良いという。キリギスタンという国がどこにあるのか・・・そもそもモンゴルでさえ中国の北方ということ以外正確な位置や地形もよくしらない。そこで本棚から世界地図をとりだしたのだ。

アジアの全体図が載っているページがあった。西はヨーロッパから東はカムチャツカ半島まで。北は北極海から南はジャワ島まで。インドや中東はもちろん、アフリカ大陸の一角までも網羅している。さまざまな国がこの中に収まっている。

それは地形図で山の高さ、海の深さなどが色の濃淡で記され、河川や平野なども細かく描かれている。国境線は描かれていないが国名や主たる山地・山脈・砂漠・河川・湖などの呼称が記されている。

一番目を引くのは中央部の紫に塗られたチベット高原だ。海抜4000メートル以上がこの色で示される。その南端部に立ち並ぶのがヒマラヤ山脈。この地図で見ると日本列島と同じくらいの長さだ。この辺りの色の変化からインドの北部の平野からいきなり4000メートル級の山々が聳え立っている様子が読み取れる。ヒマラヤ山脈の中央に位置するエベレストは8848メートル!毎日この山を見て暮らしている人々がいる。家の窓から当たり前のようにこの壮大な自然を眺めている人々。

チベット高原の東部からは3本の川が平行に流れ出している。ある地点からひとつは南の方へ流れマレー半島の付け根西側ベンガル湾へ(イルワディ川)、もうひとつはタイやベトナムを通り南シナ海へ(メコン川)、そしてもうひとつは中国を横切り東シナ海へ(揚子江)、それぞれ注いでいる。これらの川を流れる水は長い長い旅をする。ヒマラヤに降った雪が溶け、深い谷を通り、ジャングルをぬけ、田畑を潤しながら海へと旅していく。その旅の途中で出会う風景や人々。様々な人生。命。死。

肝心のキルギスタンを探すがこの地形図では見つけられず、次のページの「政治図」・・つまり国境が記された地図と照らし合わせる。目をそれに移した瞬間、今までわたしの中で広がっていた映像が突然消え去る。国別に色分けされ、国名と都市名が記された地図。河川も水色で描かれているが、前ページのものとは異なりそれはただの線にしかみえない。メコン川の豊かな流れや揚子江の雄大さは感じられない。チベット高原があるところは中国としてクリーム色で塗られ、世界の屋根がここにある気配すらない。あまりに 単純。平坦。しかし、これが現代の世界情勢の現実かもしれない。人為的な国境で区切られた国々。その間の軋轢・抗争。

国境線の描かれていない地形図を眺めていると、そこの自然が、そこに住む人々が、そしてその生活が目の前に広がる。さらに、見えないことも見えてくる。昔日本は大陸と続いていたというが、海の深浅や半島と島の続き方を見ているとそのことが明らかに見て取れる。インド大陸が昔は島で、アジア大陸に衝突し、その衝撃でヒマラヤができたと言う説もこの地図をみていると納得できる。川は大陸を横切って流れる。どこまでも、どこまでも海に達するまで流れつづける。山は連なる。どこまでも、どこまでも海に達するまで連なる。ここには人間が作った境界はない。あるのは何億年もの歳月が築き上た自然のみ。力強く、優しい自然のみ。この地図を見ていると何となく視野が広がってくる気になる。「地球規模」という言葉が意味を持つように感じる。

そうそう、キリギスタンは中国北西部。アフガニスタンの北隣にあるタジキスタンの更に北側。かなりの山岳地帯だ。昔はソ連に属していた。モンゴルは中国とロシアに挟まれ、1,000から2,000メートルの高地にある平原地帯。ほら、もう乾いた風と砂の匂いがしてきた。山羊の乳の鼻をつく匂いも。