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ランカウィ島の牛たち

2002年1月24日〜2月10日

エピローグ

 

タクシーから降り立ったわたしは荷物をおろしているヨーガンと義母よりも一足先にリサとふたりで空港ビルの中に足を踏み入れた。目の前にKLM航空のチェックインカウンターがあり、わたしは自動的に視線を頭上の電光掲示板に移した。

CANCEL

わたしたちの乗る予定のアムステルダム行きの便名の横にあるこの言葉が目に飛び込んできた。意味を理解するのに躊躇しているうちに次はドイツ語表示に切り替わる。

GESTRICHEN

そのとき、スーツケースをワゴンに乗せてヨーガンと義母がやってきた。「ねぇ、これ・・。」わたしが指差す方向を見て、夫の表情は固くこわばった。「うそぉ・・」

 

姑と一緒の初めての旅。しかも彼女にとっては初めての長距離飛行で初めてのアジア。何もかも未知の体験であるこの旅行に備えてわたしたちはかなり周到に準備をしてきた。出発の前日に我が家に来ていた義母とともにわたしたちの旅行前の期待感は最高潮に達し、心地よい緊張感を持って空港までやってきた。それなのに、この数文字のアルファベットの羅列を目にした瞬間、いきなり急降下して旋回状態にはいってしまった。

 

次のアムステルダム行きの便は予定通り飛ぶが、これではシンガポールにむかう便に間に合わない。シンガポール行きは一日一便しかないので、それを逃すと翌日まで待たねばならず、そうなると現地到着も一日ずれることになり、今後の予定が大幅にずれこんでしまう。義母は今までの期待で赤らんだ顔色をみるみるうちに失い、不安に満ちた落ち着きの無い顔つきになっている。

 

航空会社の窓口に並んでいた夫が戻ってきたのは半時間ほどしてからだっただろうか。「フランクフルトに行くんだって」という情報をリサが伝え聞いてきた。幸いなことにルフトハンザ便でベルリンからフランクフルトまで飛び、そこからシンガポール航空でシンガポールまで飛べることになったらしい。これは瓢箪から駒。サービスの質で名高いシンガポール航空。KLMをはじめとする欧州の航空会社は乗務員の合理的なサービスに時々うんざりする。墜落直前だったわたしたちの気分は再び急上昇し、しかもジェット気流に乗って一気に前進をはじめたのだった。

つづき

 

 

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