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2002年1月24日〜2月10日

 これぞリゾートざんす。

 

第5章 静穏のランカウィ

@優雅に流れる時間

ランカウィはペナンから飛行機で一時間ほどのところにあるタイに近い海に浮かぶリゾートアイランド。比較的新しいリゾートなので、自然保護の観念に基づいた開発がすすんでいる。ペナンと違い、 高層ビルのそびえるような大きな町はなく、ビーチに沿ってリゾートエリアが点在する。

冷房のやや効きすぎたペナンの空港で出発までの時間を過ごす。行き交う人々を漠然と眺めているうちに、ある家族が目についた。肌が浅黒く、背の高いスリムな父親は長い髪を背中で束ね、眼鏡をかけている。母親は色白でおとなしそうな感じ。そして2人の女の子はちょうどリサと同じ年頃だろうか。長い黒い髪をお下げにして赤いボンボンのついたゴムで束ねている。他の乗客とくらべると、どこか垢抜けた感じがする。

手荷物検査のところで、頭を優しい色のスカーフで包んだかわいらしい女の子たちの一団に遭遇した。学校の修学旅行だろうか。イスラムでは女性のたしなみとしてこのスカーフで髪を覆い包むのだが、幼い子供はスカーフを巻いていない。この小学生たちは10歳から12歳ぐらいの年頃に見受けられたが、ちょうど「女性」の仲間入りをする年齢なのだろう。私語をすることもなく、緊張した面持ちで整然と並んで待っている。

スカーフがかわいい女の子達

機内では、いつものように、リサは念入りに「安全のしおり」に目を通す。そして非常出口の確認も怠らない。救命胴衣の使用方法を説明するスチュワーデスに注ぐ視線も真剣だ。

離陸して間もなく機体は静かに下降し、わたしたちはランカウィ島に到着した。ホテルのチェックインまでには時間があるので、わたしたちはレンタカーで島内を少し見てみることにした。島の中心にある小高い丘の山頂に島を展望できる小さなカフェがあるのでそこに向かう。細い、しかしきれいに舗装された山道を車で走っていく途中、 サイチョウといわれる熱帯 の鳥が高い木の上から飛び立つのを目にした。サイチョウは大きなくちばしのうえに瘤がある黒っぽい鳥で、マレーシアで生息するものの、めったに見られない。(実は、わたしは飛んでいった影だけ見たので判別はできなかった。ヨーガンがはっきりとその姿を確認した。)

閑散としたカフェのテラスでお茶とサンドウィッチで軽い食事をすましたあと、島の北部へと向かう。途中の浜辺は最近、ハリウッド映画のロケ地となったということで、自然の浜が人工的に形を変えられてしまっている。無理矢理に椰子の木を植えたり、張りぼての家が建っていたりと、その姿は惨めなほどだ。自然保護に基づく政府の規制はどこに行ったのか?

さらに車をすすめると、マングローブの林があらわれる。ふと道路の脇に目を遣ると、自然に生息する猿が何匹か座っているのが見えたので車を止める。人に慣れているのか、好奇心が強いのか、猿たちはわたしたちの車の方に近づいてくる。窓を少し下ろして、その隙間からクッキーを投げると、体つきの大きなボスがすばやくそれを拾い上げて食べる。後のほうでボスの動向を注意深く見ているほかの猿たちは手を出せない。中には小さい小猿を抱いた母親猿の姿もあった。自然の猿にめぐり合うのは、去年のティオマン島以来だ。

ランカウィの猿ボス。偉そうだ。

ホテルがある南西部へとまた車をもどす。途中、牛や水牛が農地で草を食んだり、水浴びをしている姿を見かけた。田んぼは乾季であるため、赤茶けている。ジャングル然とした島北部とは植物相もややことなるようだ。

わたしたちが数日過ごすホテルはバンガロータイプで、すぐ前に砂浜が広がっている。部屋の造りは簡単だが、開放感は抜群だ。わたしたちは、昼間はプールや海で遊びながら、部屋の前のデッキチェアで休んだり絵を描いたりして過ごした。夜はリサが寝付いたあと、義母と三人でお酒を飲みながら語らいを楽しんだ。

ある日、義母がひとりホテルでゆったりと過ごしている間、わたしたちは島の北部にあるこの島随一の超高級ホテルを見に行った。そのままの自然を利用して建てられたこのホテルはジャングルを背に、海を前にして奥まったところに建っている。そこのロビーでお茶を飲んだのだが、贅沢なまでに時間がゆっくりとながれている。建材や家具もふんだんに自然な木が使われていて、高級でありながら、それほど高慢な雰囲気はない。(でも宿泊料は高すぎる!)

少し贅沢な気分に浸ったあと、海岸に行く。地元の人が多く来るところのようだが人影はまばら。駐車場に車を止めて、林の中を少し歩くと浜に出る。林の中で大きなトカゲに遭遇した。意外なほどのすばしっこさで植え込みの中に消えていった。浜辺は白い砂と透明の水が気持ちいい。岩場をつたって少し歩いたところに若者が3人ほど音楽を大きな音でかけて踊っていた。その様子は、ちょっと異常な感じだったので遠目に眺めておくにとどめた。お酒か、ドラッグか(この国では厳しく禁じられているが)、それともただ単に陽気なだけだったのか。

ホテルの前の海もきれいなのだが、クラゲがいる。小さいクラゲで刺されても跡は残らないのだが、リサはそのせいで海に入ろうとしなかった。確かに、痛いというほどではないが、不快な感覚だ。また、「何時来るかわからない」という不安がさらにその不快感に拍車をかける。だからわたしたちは殆ど海にはいらず、プールで遊んでいた。それに反して義母は好んで海に入っていく。デッキチェアーで分厚い本を読みふけったあと、おもむろに海に向かって歩いていき、頭を出してかなり沖の方まで泳いでいく。そしてしばらくして戻ってきて、体を拭いて水着を乾いたものに着替え、また読書にふける。クラゲに刺されないのか尋ねてみると、「刺されても気にならない」とのこと。強い。さすがにドイツ女性である。

義母は朝や夕方にひとりで浜辺を散歩に行っていた。1時間ぐらい歩いていたようだ。そしてそこで見つけた貝殻や蟹の甲羅などをわたしたちに見せてくれた。砂浜にはたくさんの小さな蟹がいて、いつも忙しそうにハサミを動かして砂で団子を作っている。団子を作っているわけではなく、砂に 巣穴を掘っていて、掘り出した砂が団子状に丸まっているのだ。ひとつの穴の周りには何十個、いや、何百個もの同じ大きさの砂団子が放射状に整然と並んである。このような穴が無数にあるので、砂浜には団子で絵が描かれたように見える。人が近づくと、 蟹たちは自分の巣穴にすばやく隠れる。ある蟹を追いかけてみると、あちらこちら迷走した上、ようやく自分の穴を見つけてもぐりこんだ。蟹の大きさは5ミリくらいの透明なものから5センチくらいの大物まで様々だ。それぞれの作る団子の大きさも体に比例している。だから砂団子模様も変化に富んで美しい。自然の造形美だ。

つづく

これまでのお話

 

 

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