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2002年1月24日〜2月10日

ブーゲンビリアの咲き誇る駅

 

第2章 マレー鉄道の旅  

A遠かったクアラルンプール

国境の橋を越えて間もないところで列車は止まった。そこはマレーシアの入国管理のための駅で、乗客は全員列車から降りなければいけない。大きな荷物は列車に残したままで貴重品だけ持って列車を降りる。

一見、普通の駅のように見えるその建物だが、出入国管理専用なので、ここから新たに乗り込んでくる乗客はいない。空港のように数箇所カウンターが並んでおり、そこに旅券を提示して無事、マレーシア入国を果たす。

入国審査を終えたあと、もとの列車へと戻るのだが、その途中でトイレがあったので、この機会に済ませておこうと立ち寄る。列車にももちろんトイレはあるが、揺れのない駅のトイレのほうが快適だからだ。でも、みな考えることは同じようで、女子トイレは結構、混んでいた。それでもしばらく並んでいるとわたしたちの番になり、リサとふたりで一緒に中にはいる。まずはリサ、そしてわたし、と用をすませて、戸を開けると・・・さっきまで並んでいたはずの人々の姿はどこにも見当たらない。わたしたちはそんなに長く中にいたのだろうか?なんだか狐に化かされたみたい。しかし、次の瞬間に自分たちがどういう状況にあるのかが判り、リサを連れて猛ダッシュで駆け出す。

幸いなことにプラットホームにはまだわたしたちの列車は止まっていた。しかし、ホーム上にも殆ど人影はない。向こうのほうにひとりだけ立っているひとがいる。よく見てみると、それはわが夫の姿で、いつまでもトイレから戻ってこないわたしたちを心配していたのだった。わたしとリサが乗り込んで間もなく、列車は静かに動き出した。

マレー鉄道は走る。車の行き交う街の中を。椰子やパパイヤの林を。水牛が水浴びをする横を。子供たちが庭先で遊ぶ前を。

ところが、ある時点から速度が落ちてきてかなりゆっくり走るようになり、そして止まった。しかし、そこに駅は無い。しばらくしてまた動いたと思ったら、また止まった。今度はかなり長く停止している。この辺は単線になっていて、停止している列車の両脇は緑の草で覆われた土手が迫っている。オレンジの蝶々がひらひらと舞っている。線路の脇を運転士らしいひとが後ろに向かって歩いていっているので、どうやら何やらあったらしい。しかし、車内アナウンスはない。

車内ではテレビがガンガンなっている。こういう非常時には暇つぶしに良いかもしれないが、妙なアクションスリラーみたいな映画で、ちょっと子供には見せられない。音量もやけに大きくて、テレビを見たくない人にとってはかなり迷惑だ。しかも車両の前と後ろについている。

後ろのインド人家族の子供たちもかなり退屈してきたようで、時々大きな声で泣きわめく。ふと母親のヒステリックに叱責する声がしたので振り返ってみると、こどもがコップをひっくりかえして、飲み物を床にこぼしてしまったらしい。そのせいでお母さんの靴が濡れてしまったようだ。なんだか、このヒステリックな怒り方は、わたしのようだ・・などとちょっと親近感を持ったりする。

同じところで1時間半は止まっていただろうか。そしてついに列車は再びゆっくりと前進しはじめた。しばらく走ったところで複線になっており、そこで南行きの列車とすれ違った。窓越しに見えた乗客の表情は、わたしたちと同じように疲労の色で覆われている。単線のところでわたしたちが停止していたのだから、反対方向の列車ももちろん先へ進めるわけがない。しかしこの遅滞の理由も特にアナウンスされず、何も無かったかのように列車はクアラルンプールへと走る。

最終的に3時間遅れでわたしたちはマレーシアの首都へ到着した。結局、9時間の鉄道の旅となった。ドイツからの飛行時間とそれほど変わらない。初めての長距離飛行が楽勝(註)だった姑は「飛行機よりもこの列車のほうが疲れた。」とこぼしていた。

 

(註)シンガポール航空でサービスがよかった上に、機内が空いていたので真ん中の座席を占領して横になって眠ることができたラッキーな姑であった。

 つづく

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