1995年11月 ベルリン テーゲル空港にひとり降り立ったわたしは、ヨーガンの姿を見つけて安堵感に包まれた。9月にヨーガンがはじめてわたしの両親に会い、正式に結婚することが決まった。その頃、彼はドレスデンで働いており、翌年の2月からベルリンに転勤。それに併せてわたしがドイツに渡ることになっていた。結婚式場の下見、新居探のほか、家具など生活に必要なものを揃えるために、わたしはこのときベルリンを訪れたのだ。
少し前に彼が今まで乗っていた車が壊れたので、新しい車を買うことにした、というファックスを送ってきていた。どんな車を買うかは、書かれていなかったが、「もしかしてBMWとかだったらカッコいいな」などと軽薄なことをわたしは思っていた。ヨーガンが駐車場に車をとりに行っている間、わたしは空港ビルの出口で待っていた。もうすでに日はとっぷりと暮れ、はく息が白い。切れるような寒さにもかかわらず、長時間飛行のあとの気分の高揚と彼との再会を喜ぶ気持ちで、体の中は熱かった。そして、ついに彼が新車に乗って現れた。
そのフォームを見て、一瞬、「やった!BMWだ!ばんざい!」と思ったが、よく見ると「S」の字をかたどった知らないマークがついている。それはSEATというスペインの自動車会社のTOLEDOという車だった。「なんだよ!そんな車知らないよ!BMWじゃないのね・・。」なんて口にするわけにもいかず、ちょっぴり落胆しながら、初めてこの車の助手席― その後現在に至るまでわたしの定位置になるその助手席に腰を下ろした。
それがわたしとTOLEDOとの出会い。
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