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第一章 洗濯機

 

ドイツの電化製品専門店のコンピューターやAV機器コーナーには日本のメーカーが軒並み顔をそろえ、新製品発売開始時期の多少のずれはあるものの、日独大差はありません。しかしながら、家庭用電気製品の分野では日本のメーカーの影は非常に薄し!!電子レンジなどドイツでは比較的新しい部門においてはまだ頑張っているものの、冷蔵庫や洗濯機では割り込む余地なし!と言う感じです。ここではSiemens、Bosch、 AEGなどドイツのメーカーがガッチリスクラムを組んで外敵の侵入を防いでいます。これは結局、生活様式の違いに起因しているのだとわたしは考えます。特に洗濯機に関してこの論理が明らかに説明できると言えましょう。

こちらで生活する日本人のおそらく全員が何度か洗濯の際に失敗しているはずです。色落ちして白い服がピンクになったとか、縮んでしまって着られなくなったとか。そして、1時間から1時間半以上かかる洗濯時間、さらにこと細かに設定された様々なプログラムに戸惑いを覚える人は少なくないはずです。

これらの失敗や戸惑いはどこからくるのかというと、日本とは根本的に異なる洗濯行程に基づきます。更に言及するならば、水の違い。軟水である日本と硬水であるドイツ(ひいてはヨーロッパ)では洗濯の仕方に大きな違いが存在するのです。

硬水と聞いてもピンとこない方が多いと思いますが、石灰分を多く含む水を「硬い」水といいます。肌の敏感な人は毎日のシャワーでお肌がカサカサになったり、髪がパサパサになったりすることもあります。また、水自体は無色透明ですが、水滴が乾くと白いシミがのこり、触るとザラザラします。もっともカルシウムを多く含むので、飲み水としての栄養価は高いと言えます。イギリスの紅茶がおいしいのもこの硬水のせいだという話です。

この硬水はどうやら、洗濯にはあまり向いていないようで、昔の生活の様子を描いた絵を見てみると大きなお鍋にお湯を沸騰させて洗濯物を煮たたせています。こうして布を柔らかくして汚れを落ちやすくしていたそうです。この温水洗濯がそのまま今の洗濯機に受け継がれているのです。

一般的な洗濯機には温度設定が30・40・50・60℃と何段階かあり、さらに色物コースとお手軽コース、そして95℃での煮沸洗濯・ウールやオシャレ着コースなどがあります。色物コースではお手軽コースよりも多くの水で洗い、脱水もしっかり。その分時間もかかります。(実際わたしはいつもお手軽コースだけしか使っていません。)衣類の内側についているタグに綿100%とかアイロンは低温でとか書いていますが、いちばん左端に洗い桶のマークがあり、そこに40℃とか30℃とか書いてあります。日本の家庭での洗濯ではほとんど無視されているこの表示。実は温水洗濯での温度設定についてだったのですね。こちらの衣類ではここに60℃や95℃という温度も見られます。

煮沸洗濯とは何ぞや?と思われている方もいらっしゃるでしょうが、これこそドイツ的洗濯方法とわたしは常々感じています。おもに綿製品の白物、シーツやタオル、下着や赤ちゃんのオムツを洗うのに使用されます。実際使ってみると、漂白剤を使うよりも真っ白になり、布オムツの洗濯にはとても便利でした。煮沸する、というだけあって洗濯によって殺菌効果を狙っているのもドイツならでは。これも生活様式に深く由来しているといえるでしょう。

ご存知かもしれませんが、ドイツでは洗濯物はあまり人目につくところには干しません。アパートに住んでいる場合、バルコニーの柵よりも高いところに干してはいけないと、約款に明記されています。昔は屋根裏部屋や地下室などに洗濯室がありそこで洗濯物を干していたそうです。現在でも古いアパートにはこのような部屋があります。つまり、日本のようにお日様の光を十分あてたり、風を通したりすることができないのです。そこで、この高温による殺菌という考えがでてくるわけです。鼻をかむハンカチだけは殺菌のためにアイロンをかけるという話もききます。

20年ほど前、P&G社から「全温度チアー」という洗濯用洗剤が売り出され、テレビコマーシャルで集中的に宣伝されていました。そのうたい文句が、「30℃でも40℃でも60℃でもこれだけで大丈夫!」というものだったのですが、当時、わたしは子供なりに不可解な思いを抱いていました。今にして思えば水で洗う日本の洗濯機の実態をこのアメリカの会社は把握していなかったのではないでしょうか。その後これは「レモンチアー」となりレモンの香りを強調したCMになったように記憶しています。

ドイツでは現在どの洗剤も全温度対応していることが表記されていることから、以前はやはり温度別に洗剤を使い分ける必要があったことが推測されます。もっとも、どの温度でで洗っても柔軟剤を使わないとバリバリになってしまうのはやはり硬水のせいでしょう。

近年では煮沸洗濯や高温洗濯は電気や水の無駄という経済的かつエコロジカルな視点から普段の洗濯は40℃で十分ということが言われているようです。わたしは色の濃いものは30℃、薄いものは40℃で洗っています。硬水中のカルキ(石灰)が洗濯機の部品を破損するので定期的にカルキ除去剤(その名も「カルゴン」)を使いましょう、というテレビの広告が常々気になるわたしですが、今のところ試供品でもらったものしか使ったことがありません。目に見えないだけについつい後手にまわってしまいます。

さて、ドイツの洗濯機のみの記述になってしまいましたが、ここで日独の洗濯機の長所および短所について考察してみましょう。日本の洗濯機の長所はなんと言ってもその短い洗濯時間にあります。30分足らずで仕上がってしまうので洗濯物が多いときは一日に何回でも回せます。また、脱水がかなり固く行われるので乾きも早め。短所としては水を多く使うこと、衣服が水の中でぐるぐる回るので生地が傷みやすいこと、水で洗うので汚れが落ちにくいことなどが挙げられるでしょう。ドイツの洗濯機は長所として温水洗濯による汚れ落ちの良さ、タンブラーが回転するので生地にかかる負担が少ないこと、使用水量が少ないこと等があげられます。短所は時間がかかること、電力の消費量が高い(水を洗濯機内で温めるため)こと等でしょう。また、多くの型が前開きになっているため、スタートボタンを押したあとで追加の洗濯物を入れようと思ってもドアを開けられない、または開けると中の水がこぼれてくるという不便さもあります。

ただし、生地の痛みに関してはこういう意見もあります。ドイツの衣服を日本の洗濯機で洗うとすぐ型がくずれてしまう。またその逆、つまり日本の衣服をドイツの洗濯機で洗うと型がくずれる。これは普遍的な原理ではないにせよ、そういう傾向があることは軽視できないでしょう。つまり、各国の衣服に応じた洗濯方法がそれぞれの洗濯機に応用されていると言えるのではないでしょうか。

結論として、郷にいりては郷に従え。その土地に応じた洗濯方法で衣服を洗うのが最良ということでしょうね。さあ、今日も洗濯、洗濯!どうでもいいけど毎日洗濯してもいつまでたっても洗濯籠がいっぱいなのはどうしてだろう???

 

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