HOME 我が家 ドイツ 思った 旅行 写真 その他

 

 

第二章 公衆マナー

 

食事のときでも大きな音をたてて鼻をかむドイツ人(欧米人)。

ひとまえで大きなくしゃみをして平気な顔をしている日本人。

それぞれの文化で「お行儀が悪い」とされていることに多少のズレがあります。今回はそれらについて考察を深めていきたいと思います。


海外旅行のガイドブックには必ずどこかに、「スープを食べるときに音をたてないように気をつけましょう」というようなことが書いてあります。日本人はお茶でもお汁物でも熱々を好みます。けれど、そのような熱い液体を水を飲むようなつもりで飲むと、口の中やのど、食道や胃までも火傷してしまうに違いありません。そこで、わたしたちは、無意識のうちに液体と同時に空気を吸い込み、熱さを緩和しつつ体内に流し込んでいるのです。その際に「ずずーっ」という音が発せられるのです。これはわたしたちの民族に受け継がれてきた伝統とも言えるかもしれません。

ヨーロッパ人は日本人が平気で飲める程度のスープやお茶が熱くて飲めません。「猫舌」というよりもそのような熱い液体を飲む習慣がないので空気とともに冷却しつつ体内に流し込む技を知らないのです。したがって、こちらで食されるスープは日本のものよりも温度が低いのが普通であり、熱いスープをだすと礼を失することにさえなります。飲む際にも当然上記の技術を応用する必要もなく、スプーンからそのまま口の中に流し込むことができます。

しかしながら、無意識の習慣とは恐ろしいもので、熱くないスープやお茶であっても、同時冷却の技術をここでも披露してしまう日本人が少なくないのです。子供の頃から音をたててスープを飲んではいけないと教え込まれていた欧米人にとってこれは大変耳障りな音のようです。日本人にとって、肘をついてご飯を食べる姿が目障りであるのと同じですね。スープだけでなくコーヒーやお茶を飲む時にもつい音をたててしまうことがあるので、海外旅行の際は少し意識的にこれらの液体に臨んでみてはいかがでしょうか。


ドイツ人をはじめとする欧米人はアジア人と比較すると一般に鼻が大きいと言えます。その分鼻腔内部の空洞も大きく、もしかしたら分泌物の量も多いため、常に鼻をかんでいるのかもしれませんが、確たる証拠はありません。森鴎外がドイツに留学していたことは有名ですが、明治・大正時代に活躍したこの文豪の随筆におもしろいくだりがありました。彼が在独の日本大使に挨拶に行ったとき、「このドイツでは人前で鼻をほじくったりしないように」と忠告されたそうです。当時の日本人は鴎外ほどの教養の高い人であっても、人前で鼻をほじくることが「いけない」ことだという意識はなかったという事実は興味をひかれます。その後、鴎外は人前で鼻をほじくるドイツ人の姿を各地に追い求めましたが、ついぞ見かけることはなかったけれど、偶然、あるドイツの小説のなかにその様子の記述を見つけ、「ドイツ人も鼻をほじくる」という事実の大発見に嬉々となったということです。

その随筆『大発見』の中で彼も述べていますが、ハンカチで鼻をかんだあと、そのままポケットに押し込み、あとでまたそのハンカチを何度も使うのは日本人にしてみれば非衛生的に思えます。今日ではハンカチにかわって、厚手のティッシュで鼻をかむことが多いようですがこのティッシュでさえも何度も利用するのは節約が美徳とされるお国柄でしょうか。

食事中や話の最中に鼻をかむことに対しては何ら抵抗もないようですが、鼻をすすることを非常に嫌がる傾向が強いようです。鼻をすする音のほうが鼻をかむ音よりも耳に障るのです。

ビジネスにおいて国際化が進むなか、ドイツ人ビジネスマンの「成功する日本とのビジネス」などと題するようなマニュアル本に、「日本では人前で鼻をかんではいけない」という項目があるのもうなずけますね。


ものを立って食べること、歩きながら食べることに対してもこちらはあまり抵抗がないようです。街のあちらこちらで見かける屋台ではいい年をした女性が口いっぱいにソーセージを頬張っている姿を目にします。子供を連れてパン屋でパンを買うと「このまま手に持たせますか?」と聞かれます。3歳を過ぎてもベビーカーに乗せられている子供がたくさんいますが、彼らの食事の場所は移動中のベビーカーであることが多かったりします。

一時、日本でもニューヨークあたりのキャリアウーマンやヤッピーたちのライフスタイルが模倣され、歩きながらハンバーグを頬張ることがカッコイイ言われていました。でも、やはりきちんと座って食べるように子供の頃からしつけられている日本の習慣が美しいとわたしは確信しています。


くしゃみをしたあと英語では「ブレス ユー!(神のご加護がありますように)」と周囲の人が言ってくれることはご存知でしょう。ドイツ語では「ゲズントハイト!(健康)」と言います。ニュアンスとしては「お大事に」という感じでしょうか。いずれにしても、くしゃみをした本人は、その非を謝り、また気遣いの言葉に対して感謝の意を示します。この習慣に慣れると、話を遮るような大きなくしゃみをしてしまった後の妙な気まずさというものが無く、双方ともスムーズに話題に戻れる気軽さがあります。

日本では、くしゃみをした時にわざわざ「お大事に・・」というのも変だし、かといって無言でいるのも何となく気まずい、という場面が見られます。また、周囲が驚くような大きなくしゃみをしておきながら、「うへへぃ」などと余韻にひたるばかりで「失礼」とも言わない人もよく見かけます。やはり、そういう場合は軽く謝るのが礼儀ではないかとわたしは思います。花粉症のこの時期、いちいち謝っていられないというのも事実ですが・・・。花粉症の方々、くれぐれもお大事に。ゲズントハイト!


日本ではそうでもないのに、こちらで不愉快に思われることは、

  • 首や関節をポキポキいわせる。
  • 飴を食べるときにチュパチュパいわせる。
  • 鼻をすする。(上記参照)

日本でも嫌がられるって?まあ、程度の問題ということで・・・・。

 

日独比較論TOPへ

第三章へ